不思議談
第二七話

題名
ありがとう

投稿者
ひろ様



私が生まれた頃、父が一匹の柴犬の雑種を家に連れてきました。
その子は私と同じメスだったのですが、5歳のときに出産するまで誰も気付かずにオスだと思っていたのだそうです。
だから名前も「タロ」。
変えようにも既にその名前で定着していた為、結局タロのまま彼女は私と一緒に育っていきました。
私には生後2週間で亡くなった姉がいたらしいのですが、知ってか知らずかタロはよく私を守るように、外にいる時もずっと側にいてくれて、私にとって家族、姉のような存在でした。
学校からの帰り道、大通りを通り過ぎて脇へと入ります。
そこには直線の通りが広がっており、端の方に自分の家が見え、その少し手前に小さな電柱があります。
タロはいつもそこに立って私を迎えてくれていました。
放し飼いであったのに、いつも私が帰るとそこに立っていてくれていました。
私の姿を確認すると、いつも走って来てくれて、電信柱から家までのほんの少しの距離を毎日2人で歩いていました。
タロが歩くと爪が地面に当たって「ツカツカ」と音を出し、私はそれを聞く度に嬉しくなってただ笑っていました。
私が17歳になった頃、彼女は死期が近かったのか良く眠るようになり、頻繁に家からふらりと出て行くことが多くなりました。
その度に家族で探しに行ったりとしていましたが、とうとう3度目の行方不明を最後にタロはいなくなりました。
動物は自分の死を人に見せないといいます。
家族はまだどこかで生きているだろうと思っていましたが、私は霊感の所為かは分かりませんが、うっすらと彼女の死を感じていました。
タロがいなくなって数日経った、ある晴れた日。
私は学校から帰っている途中でした。
家が見えてきて、同時にあの電信柱も目に入ってきます。
その時に急に小さい頃に心配していた彼女がいつも出迎えてくれていた思い出が蘇って私は思わず涙がこみ上げてきました。
電信柱の下でちょこんと座って尻尾を振っていた彼女。
そんな姿を思い出すのが辛くて、私は顔を地面に向けて電信柱を通り過ぎようとしました。
「ツカツカ」
その時、私のすぐ横からその音が聞こえたのです。
気のせいにも出来るぐらい小さな音で。
タロの爪が地面と当たり、歩くたびに鳴っていたその音が。
私はばっと顔を上げ、辺りを見たのですが、そこには何も無くただ暖かい風だけが通り過ぎていくだけでした。
その時に、ようやく私は彼女の死を実感しました。
彼女は会いに来てくれたんだと、道端で号泣しながら頭の隅でそうはっきりと感じていました。
今までありがとう。
私はもう大丈夫だよ。
もし彼女に声が届くならそう言ってあげたいです。



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