動物は人間と比べて、理性の働きが弱いですが、その代わりに思わぬ力をみせつけることもあります。
人間の子供も例外ではありません。
しかし、皮肉なことに、人間は大人になるにつれ、理性の働きを得るとともに、その力を失う傾向があるようです。
この話は、私の姉が小さい頃、両親が福岡県のあるところにすんでいた、むしあつい夏の出来事です。
空は澄みきった青色を呈していますが、何せ、梅雨あけの季節でもあり、湿度もたかいのです。
当時、家族は、裕福でもない、貧乏でもないくらしで、三人仲良くらしていました。
そして、今は亡くなりましたが、ペットの犬もいつも一緒でした。
昼下がりになると、庭に面する軒下でそろってスイカを食べました。
風鈴の小気味よい音をききながら、スイカの皮の山をつくります。
庭はけっして映えのある景観ではありませんが、数本の木と砂浜のような真っ白な土壌がつくりだす世界は、夏にぴったりです。
そして、庭の中央付近に、井戸のようなものがあります。
実はこれは井戸ではなく、丸い入り口を下っていくと、さらに昔、罪人を閉じ込めるために使われた牢屋が、いくつかあったそうです。
そこでは、拷問や処刑が数多く行われたそうで、人もよりつくところではありませんでした。
当時、そこは潰されて土で埋め尽くされ、入ることも覗くこともできませんでしたが、近寄りがたい雰囲気を醸し出していました。
その夏の夜、両親は寝静まっていましたが、父は風鈴の音で目覚めました。
しかし、ふと、おかしい、と思いました。なぜなら、夜は虫が入ってはまずいので、障子は閉めて、風は入らないはずなのです。
障子は開いていました。
おそらく、姉が開けたのでしょう。
例の井戸らしきものが見えますが、誰もいないはずの庭にむかって姉が手を振っていました。
しかし、犬はすごい形相でにらんでいます。
そのまま、父は再び意識が遠のいていきました。
明くる朝、父は姉に、昨日の夜誰に手を振っていたのか、聞きました。
すると、姉は「あの井戸みたいなのから、声がきこえて女の人がおいで、おいでしてたの。眠かったから、バイバイしたよ」
今、私たちは全くちがうところにすんでいます。
姉は当時のことは覚えてないそうです。
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